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春猿、月乃助が成功祈願~10月三越劇場 新派名作撰『婦系図』
10月三越劇場では、新派百二十五年、泉鏡花生誕百四十年を記念し、
新派名作撰『婦系図』が上演されます。市川春猿のお蔦、市川月乃助の早瀬主税(ちから)、市川笑三郎の小芳、新派の代表作として長年に亘り愛されてきた泉鏡花の名作に歌舞伎俳優三人が新たな息吹を吹き込む話題作です。公演に先立ち、名場面である「湯島の境内」にちなみ、春猿、月乃助が物語ゆかりの湯島天神にて成功祈願をおこない、意気込みを語りました。(写真上:湯島天神境内の泉鏡花筆塚にて)

成功祈願を行う春猿と月乃助
【市川春猿】
歌舞伎と同時に新派の作品にも強い思いがございます。自主公演で『明治一代女』を勉強させていただいた事もあります。泉鏡花先生の作品は坂東玉三郎さんの『夜叉ケ池』に出演させていただいたり、『滝の白糸』を勉強させていただいたり、そういう機会を与えられて、今回『婦系図』という歌舞伎で言えば古典中の古典、新派を見たことの無い方でも題名だけは御存じというような大きな作品に挑戦させていただける事になり大変嬉しく思っております。不安もあり、緊張もありますが、有難く身の引き締まる思いです。一所懸命に勤め、歌舞伎の女方が挑戦することで、またなにか作品の新たな魅力をお伝えできればと僭越ながら思っております。
『婦系図』のお話をいただいて以来、色々な先輩方の映像を拝見していますが、本当に皆さん演じ方が違います。細かい芝居の仕方もそうですが、雰囲気もぐっと違っていて。ただ、映像で見ただけでは役の性根の部分まではわかりませんので、新派の諸先輩方にもおうかがいしながら掘り下げていこうと思います。喜多村緑郎先生の残された資料のなかに「湯島の境内」の演技メモがあり、仕草などがとても細かく描かれているので、そうしたものも参考にしようと思っています。
お蔦は純粋な女性です。その純粋さの中にも、元芸者、花柳界の雰囲気がちょっと覗いてしまい、自分は一所懸命堅気になりたい、良い奥さんになりたいと思っていても、要所要所でポロポロとそうした感じがでてしまう、そんな雰囲気作りがこのお役には大事ではないかと思っています。そして様式美も非常に大事になってくるお芝居です。半纏を投げるところも、チョンという柝の音に乗せたりします。そうした一つ一つの仕草も稽古を重ねて綺麗になるようにしたいと思います。
【市川月乃助】
昨年10月の三越劇場では、新派名作撰『葛西橋』の友次郎を勤めさせていただきました。そして一年経ち、いよいよ新派の名作『婦系図』の早瀬主税を勤めさせていただきます。憧れていたお役に挑めるというのは役者冥利、今は奮い立つ思いを胸に初日を待っています。
主税は、立役として憧れている、中村吉右衛門さん、片岡仁左衛門さん、市川團十郎さんらも勤めていますし、映画では市川雷蔵さんや長谷川一夫さんも演じているお役です。新派にはめずらしく男性が活躍するというお芝居でもありますし、主税は正義感、男のもつ強さ、やさしさが凝縮された振り幅の大きい役ですので、とてもやりがいを感じます。
ただ、酒井先生との関係など、現代ではそのまま理解できないような明治の時代背景があります。だからこそ私たちの芝居を通じてその時代や空気をお伝えすることが大事だと思っています。そのためには、その時代の人物になりきり、背景や価値観を腹の中に納めたリアルな芝居をつくっていきたいと思います。お蔦がしっかりと可哀想に見えるように、対極的に演じて、お客様の心に残るお蔦・主税にできれば。子どもの頃、山田洋次監督の映画『男はつらいよ』のなかで、森川信さんの演じるおいちゃんがこの有名な湯島境内の場をやってみせたら、寅さんが号泣してしまうシーンがあって、それを良く覚えています。子供心に「何の映画なんだろう」って興味を持ちました。このお芝居をご覧になったお客様にも、寅さんとおいちゃんの二人のように号泣していただけたら嬉しいですね。


