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梅玉ら出演者が「国立劇場11月歌舞伎公演」取材会で意気込みを披露


  国立劇場11月歌舞伎公演は、『名高大岡越前裁』(なもたかしおおおかさばき)を上演します。命を賭けて難事件に挑む大岡越前を中村梅玉が初役で勤める他、坂東彌十郎の山内伊賀亮、市川右團次の天一坊という楽しみな配役です。
 9月22日、都内にて取材会が行われ、出演者が公演に向けての思いを語りました。

【中村梅玉】
 大岡越前守を勤めさせていただきます。大岡越前は何と言っても江戸のヒーロー。今でも皆さんよくご存じの名奉行です。今回の天一坊事件は、さすがの大岡越前もどうしようもない。何度訴えても却下され、裁判になっても伊賀亮の弁舌に負けてしまう。挙句の果てに切腹直前まで追いつめられてしまいます。しかし、家来の活躍で証拠を掴み、やっといつもの“大岡裁き”ができます。とても人間的な膨らみがあって面白い役になっています。
 本日、大岡廟にお参りをさせていただいて、大岡越前というヒーローを自分が演じるという覚悟ができました。代々の先輩が演じている舞台に負けない大岡越前を勤めたいと思います。

 今回は、名奉行と言われる大岡越前の内面の苦しみを出して・・・どうにもならない、どうしたらいいだろう。伊賀亮に言い負かされて追い詰められ、何か証拠をつかむことができないかと、10日間の猶予を貰い家来を紀州に送りますが、最後の日になっても戻って来ない。もう切腹するしかない・・・その最後の最後に、やっと証人を連れて戻って来る。その過程の、葛藤や悩み、そういうところが上手く表現できれば良いなと思っております。

 あくまでも歌舞伎として、心理劇になりすぎないようにするのが難しいところです。しかも、大岡越前の深い悩みがお客様に伝わるように、十分に研究して勤めたいと思います。
 この芝居の眼目は、やはり大岡越前の“苦悩”です。皆様のイメージを壊さないように、最後は颯爽とした大岡越前になれば良いと思っています。今回は彌十郎さん、右團次さんという現代の歌舞伎界の精鋭達を相手にするわけですから、そういう意味でも凄く楽しみです。



取材会の前には豊川稲荷東京別院の大岡廟にて成功祈願が行われました


【坂東彌十郎】
 このお芝居は思い出がございまして、国立劇場で昭和47年3月に上演され、その後6月に南座で上演した時に伊賀亮を父の坂東好太郎がやらせていただいておりました。その頃16歳だったと思います。その舞台で「ああ、しっかりした子役さんが出ているな」と思ったのが今の右團次さんで、凄く思い出深いお芝居です。
 その時、父は61歳、私は今62歳です。もっと父は歳がいっていたような気がしたのですが、その歳を越えてやらせていただくという光栄な思いをさせていただきます。

 そして有名な“網代問答”という、伊賀亮が大岡越前をやり込める場面。話では聞いているのですが、その場面はあまりよくは覚えていませんでした。今、網代問答として残っているものを、きちっと、この先も話題になるように、また再演していただけるように創っていかなければいけないと、気持ちを引き締めて臨んでいくつもりでございます。

 伊賀亮は、もともと関白家に仕えていて、それなりの気品を持っていなくてはいけないお役です。問答を聴いているお客様が、どんどんと引き込まれるように、そういうリズムが必要です。
 印象に残っているのは、伊賀亮に天一坊が寄りかかって説得する場面です。私も師と仰いでおります(二代目市川)猿翁さんと、父がその形をしていたのを凄く覚えています。いかにも歌舞伎らしく素敵でしたので、その思い出を踏まえながら創っていければ良いなと思います。


【市川右團次】
 私の初舞台は、京都南座で昭和47年の6月でございました。『大岡政談天一坊』の忠右衛門という大岡越前の息子の役です。十三代目の松嶋屋(片岡仁左衛門)さんの大岡越前で、片岡秀太郎さんのお母様で、その間にちょこんと座らせていただいて初めて舞台を踏ませていただきました。天一坊は師匠の三代目(市川)猿之助、現在の猿翁でございました。まさか、師匠のお勤めになられた大役をやらせていただくとは思いもしませんでしたし、数々の名優さんが演じてこられた、この天一坊が自身に勤まるかどうか本当に心配です。諸先輩の力をお借りして、懸命に勤める所存でございます。
 また、その時に私が勤めました忠右衛門を、皆様のご理解をいただきまして、倅の市川右近がやらせていただくということも、非常に由縁を感じ、大変喜ばしく思っております。

 河竹黙阿弥が明治になって創ったこのお芝居には、現代性や、リアリズムといったものも感じられます。その中で、若い青年がちょっとしたきっかけで悪事に手を染め、その浅はかさや愚かさを表現することが、この時代に創ったお芝居を演じる上での眼目だと思います。黙阿弥調のセリフが劇中にも出てきますし、そういうところで歌舞伎を感じていただきながらも、どこか新しい風というのが吹いていた時代の芝居・・・青年ゆえに、伊賀亮も力を貸そうと思った、そういう“青々しさ”のようなものが出せれば良いなと思っております。


写真撮影には、大岡一子忠右衛門を演じる、市川右近さんも参加。「お父さんには負けません!」と元気に挨拶をしていました。