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渋谷・コクーン歌舞伎第十六弾『切られの与三』の製作発表が行われました


 平成30年、 コクーン歌舞伎に待望の新作が登場します。美男美女が別れと再会を繰り返す江戸世話物の人気作『与話情浮名横櫛』が、上演されたことのない場面を加えて、串田和美の演出・美術、木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)の補綴で全く新たな演出で生まれ変わります。
 与三郎は中村七之助、お富はコクーン歌舞伎初出演となる中村梅枝。公演に先立つ4月13日、都内で製作発表が行われ、串田和美、木ノ下裕一、中村七之助、中村梅枝が公演へ向けての意気込みを語りました。

【串田和美(演出・美術)】
 ずいぶん前から『与話情浮名横櫛』をやりたいなと思っていました。このお芝居は、たぶん中学生か高校生ぐらいの頃に十一代目市川團十郎襲名の舞台を歌舞伎座で拝見して格好良いなと思っていたのが頭にずっとありました。それから、小さな頃は春日八郎さんの「死んだはずだよお富さん」という歌謡曲がずっと流れていて、何だろうと思いながら育っていました。

 『与話情浮名横櫛』は瀬川如皐が書いた、実はものすごく長い話で、長すぎて初演からまだ書いた通りやった舞台は一度もないそうです。全部やったから良いというわけではありませんが、いろいろと捨てられた中にも面白いものがあったりします。もともとは講談とか歌舞伎で江戸時代からやっていたものを題材に如皐が書いたということがあって、いろいろなものが入り混じって歌舞伎になり、その歌舞伎も時と共に変わって書き替えられていて、面白いなと思います。そして、そろそろ新しいものがあっても良いのではないかという感じも持っています。

 音楽については、この作品をやることになって“疾走”という言葉がパッと頭に浮かびました。前から企画した時に何かこう走り抜けていく、時代だったり、一人の人間の生きざまであったり、走っていく感じが頭に浮かんで、その時に軽いジャズのメロディが頭の中に流れて来ました。コクーン歌舞伎ではいろいろな楽器が出てきましたが、ピアノは一度も出ていないんです。ピアノと歌舞伎が組み合った時にどのような化学変化が起きるのだろうかと思って、今ちょっとドキドキしています。

 台本については、木ノ下さんとずいぶん話し合い、徐々に形にはなってきています。また稽古に入ると変わると思います。彼は僕以上に歌舞伎そのものの勉強が凄くて、若いのにずいぶんいろんなことを知っているなと思いながら喧々諤々とやっているところです。遠い昔の自分たちに関係ない話ではなく、「私たちの話」にしたいというのをいつも思いながらやっています。


【木ノ下裕一(補綴)】
 この度、このように光栄なお仕事をいただきまして戦々恐々としていると同時に、とても嬉しく思っています。コクーン歌舞伎は2003年から毎公演欠かさずに観ていまして、いつも感動するのは、古典をやっているのですけれど、その古典に出てくる人々や物語と自分たち現代人が、地続きといいますか、実際に触れられるという手触りがあることです。“死ぬ気で頑張る”という感じで、参加したいと思っています。

 台本を補綴している中で、「傷」というのがひとつのテーマになってくると思います。「傷」はすごくネガティブな部分もありますが、何かの痕跡ということもあります。何かそこに「傷」を負ってきた時の記憶もそこに眠っているかもしれない。そういう様々な「傷」を見ながら、お客様が自分の持つ「傷」に思いをはせられるような台本になれば良いなと思います。


【中村七之助】
 父(十八代目中村勘三郎)が遺してくれた宝物の一つ、コクーン歌舞伎をまたやらせていただけるということを本当に嬉しく思います。いつもは女方を主にさせていただいておりますが、今回は立役ということで、私なりに与三郎を良いものにできたらいいなと思っています。あとは稽古を一生懸命に頑張って、皆様に良いものをお届けできれば幸いでございます。

 与三郎という役は、立役の方からしてみればとてもやりたい役の一つだと思います。与三郎が決まって公になった時に、真っ先に楽屋に飛んできてくれたのは松本幸四郎さんと片岡愛之助さんで、「傷はこうやって描くんだよ」など聞いてもいないのに教えてくれた先輩2人にはやはり強い思い入れがあるんでしょう。先人達が残してくださった思いを、どこか腹にしまってやらなくてはいけないなと痛感しております。

 コクーン歌舞伎も第十六弾になりますが、全く変わらないのは、最初に立ち上げたころから続く“熱”ですね。父であったり、串田監督であったり、(中村)芝翫の叔父が稽古場で作り上げてきた“熱”を私達もずっと肌で感じてきました。コクーン歌舞伎は皆、目の色が変わります。染み付いている魂みたいなものがあって、コクーン歌舞伎の稽古場に入った時点で皆のスイッチが切り替わります。そして、串田監督が作り上げてきた、どんな人でも平等、どんな意見でも聞く、みんなで試すという楽しい稽古場も昔から変わらないですね。


【中村梅枝】
 コクーン歌舞伎初挑戦ということで、不安とワクワクと、いろいろな感情が入り混じっている状態です。今回、お富という女方の役をさせていただきますが、女方の先輩である七之助の兄さんが立役ということで、観終わったお客様に「七之助さんの女方が見たかったな」と言われないように、一生懸命勤めてまいります。

 今回のお富は、現段階では登場する度に“違う女性”になっています。与三郎のことは本気で好きだったけれども、そのあと会う度に与三郎の事が本当に好きなのか・・・その気持ちに一貫性を通した方が良いのか、それとも与三郎がお富に執着しているのが良いか・・・一言でいえば“性悪な女”そのように役作りをしたいと思っています。

 七之助の兄さんは、一番年の近い女方の先輩ということで尊敬をしております。相手役をさせていただくことによって、いろいろな事を学び、自分の良いところもあると思うので、そういうところが相手役として上手くはまっていけばと思っております。
 お富は一度させていただいたことがありますが、今回このような機会をいただいた以上、お富という役を一から、形からではなく精神的、内面的なものから作り上げていければと思っています。