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吉右衛門、梅玉が国立劇場12月歌舞伎公演『鬼一法眼三略巻』への思いを語りました
国立劇場12月歌舞伎公演は、源義経にかかわる説話・史実を題材にした義太夫狂言の名作『
鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)』の上演です。
「菊畑」「檜垣・奥殿(一條大蔵譚)」と呼ばれる場面がそれぞれ単独で上演される事が多くありますが、今回は、双方の背景をなす「六波羅清盛館」を序幕に配し、二つの場面を通しての上演です。平清盛の横暴に耐え源氏再興を志す人々の物語が絢爛に繰り広げられます。
公演に先立ち、吉岡鬼一・一條大蔵卿長成を勤める中村吉右衛門、そして虎蔵実ハ牛若丸・吉岡鬼次郎を勤める中村梅玉が思いを語りました。

【中村吉右衛門】
吉岡鬼一は初役になります。智恵内を勤めることが多く、今まで色々な方の鬼一を拝見して参りました。それらを参考にして、また初代(中村吉右衛門)の書き抜きや昔の台本がございますから、それに基づいて勤めさせていただこうと思っております。本当に腹のあるお役です。その腹をお客様にはお見せしながら、鬼次郎や虎蔵には見せない、というのはとても難しい事です。これから一所懸命研究していきたいと思っております。
一條大蔵卿について、初代はシェイクスピアのハムレットからヒントを得ていたと伺っています。教養があり文武両道に秀でた方が少しおかしい人を演じなければいけなかった葛藤・悲しみ・苦しみを取り入れながら、笑わせるところは笑わせ下品にならないように、そして最後は"ぶっかえる"お芝居ですから、あまり深刻になりすぎないように、皆様に楽しんでいただけるお芝居にしたいと思っています。
「あまり睨まれないようにするには」とか、「やりすぎて左遷されてしまう」とか、『鬼一法眼三略巻』のようなことは現代にもあるのではないでしょうか。平家にいじめられ、滅んだ後も追及されている源氏の人達の苦しみ、それはきっと今の社会にも通じるものだと思います。どんなことを言われても我慢してやっていく、そうして夢を果たしたらどんなに素晴らしい事か…そんなところが出るように、少しでも皆様に感じていただければありがたいなと思っております。

【中村梅玉】
今回は「菊畑」と「檜垣・奥殿」の両方で、それぞれ違う役で播磨屋(吉右衛門)さんと共演をさせていただきます。同じ狂言で二役を役者が変わって勤めるというのも歌舞伎ならではですので、そうした変化の面白さも、ぜひ楽しんでいただきたいと思っています。
「菊畑」の虎蔵は若衆役の代表的なものですから、若さ、色気、そしていかにも牛若丸らしい雰囲気を出すことが大切です。私自身の事になりますが、若い頃に初めて勤め、その後の私自身の役柄を決めた役の中の一つでもあって、とても思い入れのあるお役です。今回また新たに勉強し直して、若返って勤めたいと思っています。
鬼次郎は、播磨屋さんと何度も勤めさせていただき、今回は弟の魁春が常盤御前を勤めさせていただきますから、チームワークといったものも含めとても楽しみにしています。鬼次郎に限らず古典では、主役の方が芝居をなさっている時にじっとしているお役が結構ありますが、その時が一番難しいと父(六世中村歌右衛門)がよく申しておりました。気持ちが入っていなければいけないけれど、気持ちを身体で表してしまうと主役のお芝居の邪魔になる…そういうところは本当に難しいと思います。


