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【松本幸四郎】
　再来年、平成30年の1・2月歌舞伎座を皮切りに、三代襲名を37年ぶりに行わせていただくことになりました。今までの九代目松本幸四郎改め、二代目松本白鸚を襲名させていただきます。初舞台から顧みれば71年、いろいろなことがございましたけれども、今日の日のために今までのことをやってきたのではないかと、しみじみと思えるくらい本当に幸せでございます。
　今から35年前に、私の父（初代松本白鸚）が三代襲名を行い、翌年の1月に亡くなりました。命を懸けてやってくれた三代襲名を、また37年経った興行で実現できるということは、私の中ではほとんど奇跡に近いようなことでございます。
　この襲名を思い立ったきっかけは、十代目の幸四郎を継いでくれる染五郎でございます。染五郎の昨今の舞台をいろいろと観てきましたが、その中の『伊達の十役』で、『先代萩』の政岡をいたしました。この女方には我が子ながら舌を巻きました。その時に思い出しましたのは、たしか染五郎がまだ十四か十五の頃、子供歌舞伎教室で『鏡獅子』を踊ったのを叔父の（二代目）尾上松緑が観てくれまして、私に一言「ああ、高麗屋にも弥生を踊る役者が出たな」と掛けてくれた言葉でした。

　今から35年前の三代襲名の時は、もう無我夢中でした。父が、襲名興行が終わって12月に床に就いて翌年の1月に亡くなりましたので、それから後は染五郎と二人で高麗屋の襲名をやりました。あの時は、再び三代襲名を実現できるとは夢にも思っておりませんでした。夢とは叶わないものだ。叶わないものが夢だ。それを叶えてやろう、何とか叶えてやろうと思う、自分も含めて苦しみも悲しみもそのままに終わらせないで、苦しみは勇気に、悲しみは希望に、お客様にも自分自身にも変えられないものかという気持ちでずっとやってきました。それが、振り返ってみると自分にとっての叶えるべき夢だったのかなと思います。そういう自分の思いをあきらめずに、途中で挫折せずに苦しみの中から頑張ってきたので、後を継いでくれる息子や孫が出てきたのかなと思います。

　染五郎の芸というものが、染五郎という器を溢れ出てしまって、私の出来ない領域が染五郎という器から溢れ出ていてもったいないような気がしたんです。ここで、あえて器を変えて、幸四郎という器にして、その中に新たな芸をいっぱい詰め込んで欲しいと思っております。幸四郎でなくなることの寂しさなどはまったくなく、ただ感謝です。幸四郎としていろいろな方のお世話になりました。その方々に対する感謝の気持ちだけですね。お世話になった方々に、十代目幸四郎と八代目染五郎をよろしくお願いしますという気持ちでいっぱいです。

　私にとりましても、また二人にとりましても来年がそれぞれの名前の最後の年になります。最後の年に悔いの無いように、自分としては最後の幸四郎を演じまして息子に孫に手を貸していきたいと思います。
　白鸚という名前は白い鸚（オウム）と書きますけれども、これからは白鸚というまっさらな気持ちで、一からお芝居を勉強したいと思います。

【市川染五郎】
　この度、十代目松本幸四郎を襲名させていただくことになりました。正直、今、ここにいる自分の気持ち、ただ、ただ興奮しております。それが何なのかはわかりません。それが襲名披露となりまして、1年、5年、10年、20年、30年と経ってわかって来ることなのかなと思います。
　私自身、ずっと歌舞伎役者であり続けたい、歌舞伎の舞台に立ち続けたい。そして高麗屋の芸、代々演じてきた役々を自分が体現したい、その思いで舞台に立ち続けております。それは名前が変わりましても変わりません。それをずっと、命の限り続けたいと思っております。
　私の尊敬する方の言葉をいただきまして申しますれば、襲名するにあたり「歌舞伎職人」になりたいと思っております。それを目指しております。その思いで襲名披露を勤めさせていただきたいのですが、その尊敬する方というのは志村けんさんです。志村けんさんが「お笑い職人になりたい、お笑い職人であり続けたい」と言われました。この言葉をいただこうと思って、その言葉を今日言うのは適切かはわかりませんが･･･それが十代目幸四郎になる、最初の決意の言葉だと思っております。
　また、倅が八代目市川染五郎を襲名させていただきます。三代襲名披露興行は一人でも多くの方に観ていただきたいと思います。

　歌舞伎役者であり続けたい、高麗屋の代々演じた役々を自分が体現したいと言ったのは、決してそれは高麗屋に生まれたから、それをやらなければいけないからということではありません。歌舞伎の演目や役々は数限りなくあります。その中でも高麗屋が代々演じてきた役に一番憧れており、それを皆様に知っていただくためには自分が体現できるようになりたい、ただその思いでやって参りました。松本幸四郎を継がせていただくことはそこに向かって少し近づいていくことなのかなと思っています。

　やりたい役は数限りなくありますけれども、『勧進帳』の弁慶をやらせていただけるような役者を目指したいと思います。また『関の扉』や『大森彦七』も所縁のある演目であり、憧れているものですので、それができる役者になるということを目指していきたいと思います。命の限り歌舞伎役者であり続けたい、歌舞伎が好きだからここまでできるということを証明したい、そして一人でも多くの方に歌舞伎が好きだということをお伝えしたいと思っています。

　　息子に対しては、これから大人の役になっていく途中の時期でもあります。身体も変わっていき、声変わりも始まっていますけれども、肉体的な変化というのが一番急激に起こる時期でもあります。その時に頑張らなくてはならないこともたくさんあります。今は幸いなことにお芝居が好きなようですので、それを自分で出来る身体にしていくということが一番大事ではないかなと思っています。

【松本金太郎】
　松本金太郎です。本日はありがとうございます。再来年、八代目市川染五郎を襲名させていただきます。よろしくお願いいたします。

　今まで聞きなれた父の名前を継ぐ実感はまだありませんが、嬉しいです。染五郎になったら『勧進帳』の弁慶がやってみたいです。