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9月京都南座 新作歌舞伎『あらしのよるに』出演者らが思いを語りました
9月京都南座「九月花形歌舞伎」では、新作歌舞伎『あらしのよるに』が上演されます。今年出版20周年を迎えた、累計300万部を超えるベストセラー絵本の初の歌舞伎舞台化で注目される公演。その製作発表が行われ、中村獅童、尾上松也、中村梅枝、中村萬太郎、市川月乃助に加え、脚本の今井豊茂が公演への思いを語りました。
【今井豊茂(脚本)】
新作の歌舞伎ということで、皆様が抱かれる歌舞伎のイメージから大きく外れることがなく、懐かしさとともに新しさも感じられるような作品になるように本を書かせていただきました。
主人公がオオカミとヤギと森の動物たちという、人間が一人も出てこないお芝居です。きっとご覧になっているお客様も「これ人間でもよくあるよね」と思っていただけると思います。音楽も、長唄や竹本、いわゆる歌舞伎を上演するときに使う邦楽を用い、演出の藤間勘十郎さんをはじめ皆さんとご相談のうえ、良い作品に出来たらいいなと思っています。
【中村獅童】
オオカミの「がぶ」を勤めます。こういうお芝居というと、子ども向けに創る劇を想像されてしまうかもしれませんが、今回は、歌舞伎の中にオオカミやヤギが出てきたらこういう表現法になる、例えば『義経千本桜』の「四の切」のように、歌舞伎には狐を人間が演じるといったメルヘンの世界もありますから、どこかそういうものと通じ合う、歌舞伎の演出法や音楽にこだわったお芝居にしたいとおもっています。
「四の切」であれば子が親を慕う気持ち、『あらしのよるに』であれば友情、どちらにも普遍的なテーマがあります。現代の大人の我々の心にも響く童話の世界観は、歌舞伎に通じるものがたくさんあります。新春浅草歌舞伎で「四の切」の忠信をやらせていただき、そのお芝居を観たNHKの方から「あらしのよるに」の読み聞かせのオファーをいただきました。その時から歌舞伎と通じるものがあると思っていましたが、こうしてお芝居として形になるのはとても嬉しいことです。
衣裳のデザインは、ひびのこづえさんにお願いしています。登場人物が大勢でてくるので、時には群舞のような舞踊もお見せして、見て楽しく感動できるような作品にしたいと思っています。私もいままでは声だけの出演でしたが、それとはひと味違った、歌舞伎のお芝居に出てくる「がぶ」をこれから創っていきたいと思っています。
【尾上松也】
「がぶ」と友情を結ぶヤギの「めい」を勤めます。「めい」は一見おとなしそうなのですが、実は「がぶ」より気が強いところがあり、そうした役どころは、意外と歌舞伎には少ないのでは無いかと思います。いわゆる「つっころばし」のような、ちょっと気の弱い、なよなよした風貌だけれど、実は気が強い。原作をじっくり読みながら、「めい」の性根はどういう物なのか、しっかり肚の中にいれて、勤めたいと思います。
【中村梅枝】
やぎの「みい姫」というお姫様を勤めさせていただきます。歌舞伎には演目によって様々なお姫様が登場してきますが、やはり品があり、おしとやかだけれども、心の中はとても情熱的、というのが、歌舞伎に出てくるお姫様のイメージではないでしょうか。そうしたお姫様になるように、勤めていきたいと思っています。
【中村萬太郎】
「めい」の幼なじみで、やぎの「たぷ」を勤めさせていただきます。私の「たぷ」は原作にも登場するので、本をよく読み込んで勤めたいと思っています。また、どちらかというと時代物の役の作りになると思いっているので、そうした役を参考にしながら創っていきたいと思っています。
【市川月乃助】
オオカミのボスの「ぎろ」を勤めさせていただきます。普段なかなかご一緒できない皆様と、このような話題作に参加できることを、嬉しく楽しみにしております。歌舞伎には動物を擬人化して表現するお芝居や舞踊がたくさんあり、そういうものを成立させることができる演出法は本当に素晴らしいと思います。今回もそれを駆使して、素晴らしいものができあがるのではないかなと思っています。
原作・きむらゆういちからのメッセージも紹介されました。
現代作家の絵本が歌舞伎になるのは初めてだそうです。いったい歌舞伎の世界で、ガブやメイはどんなふうに演じられるのだろうと、いまからワクワクしています。今度の作品で、より多くの大人や子どもが歌舞伎大好き人間になってくれることを願っています。