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歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」昼の部は新作歌舞伎『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』を上演します
10月の歌舞伎座は
「芸術祭十月大歌舞伎」が開催されます。その昼の部で、古代インドの大叙事詩を題材にした新作歌舞伎『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』が上演されることになりました。日印文化協定発効60周年でもある2017年が“日印友好交流年”とされたことを記念して行われるもので、インドの古典が歌舞伎になるのは初めてのことです。
8月30日(水)、都内にて制作発表会見が行われ、出演の尾上菊五郎、尾上菊之助らが新作歌舞伎上演に向けての思いを語りました。
【宮城聰(演出)】
ヨーロッパ等の現代演劇の演出家に比べると、日本で演出していてとても恵まれていると思うことが一つあります。伝統的な演劇が何百年もの蓄積、知恵の蓄積を持った演劇が日本の演劇界の最前線で活動しているということです。私が新しい脚本を演出する時にも、俳優の技量、技術、あるいは演出上の技術は日本の伝統演劇を様々に学んで演出することができます。こういうことは海外ではあまりありません。例えばフランスでは、演劇の歴史でいえば歌舞伎と同じぐらいの歴史がありますが、今パリに行ってみても300年前、200年前の演技の形が残っているということは全くありません。セリフの言い方も、近年の言い方に完全に一新されてしまっていて、100年前の俳優がどのようにしゃべっていたか、200年前の俳優がどのようにしゃべっていたかなどは全く伝わっていないわけです。歌舞伎の蓄積や知恵をずいぶん使わせていただき、大変助かっています。
今回、歌舞伎を演出させていただくにあたり思うことは、自分が歌舞伎を演出することによって、もしかしたら100年後、200年後にこの作品が残って、未来の演出家や演劇人達がそれを参考にしてくれるのかもしれないと思うと、非常に夢が持てるわけです。インドを舞台にした歌舞伎というのは今まで無いそうです。かつての日本には、中国と並んでインドの大きな影響があったはずなのに、なぜか今までインドを舞台にした歌舞伎はありませんでした。中国を舞台にした歌舞伎『国性爺合戦』が今では古典と言われるように、この作品も100年後、200年後に古典中の古典となっているといいなと夢見ております。
初めて歌舞伎を演出する上で、一つ確信があるのは「美」というものです。これは本当に不思議だと思うのですが、普遍的な・・・美というものを感じない人は地球上にいないし、ある地域で本当に美しいとされているものは世界のどこに持って行っても美しいとされます。私なりに「これは美なのだ」というものを提示させていただければ、必ず共通の理解に至るであろうと考えております。そこは本当に楽しみです。
歌舞伎の何百年という間に練りに練られた、たくさんの人の知恵が積み重なり、そして驚くべき技量を持つ俳優達という歌舞伎の蓄積と、今日の世界を見た時の最先端の演劇という両方が10月の歌舞伎座に実現するのではないか、それを期待していただければと思います。
【青木豪(脚本)】
最初に菊之助さんからお話をいただいた時に、宮城さんの『マハーバーラタ』を拝見しまして、“これをそのまま歌舞伎にしては?”と申しましたところ、「もう一回新しいものとして創りたい」ということでした。原作といってももの凄く長くて、原文がそのまま訳されたものがありません。原文を基に物語になっているものが数冊ありましたので、それを拝読しますと、カルナという登場人物が出てきましたので、この人の目線で書いていくと全体的にまとまり『マハーバーラタ』ができるのではないかと思いました。
書いている途中で菊之助さんや宮城さんからたくさんのアイデアやアドバイスをいただき、その度に思うのは、話が本当に大きくて、神々と人間が触れ合っていたり、我々には想像もできないような出来事がたくさん起こるということです。普段は、市井の人々の会話劇を中心に歴史劇を書いたりしますが、神々と触れ合うというところまではまだいっていなかったので・・・。絶えず、宮城さんと菊之助さんの二人の意見を聞き、格闘しながら書かせていただきました。
カルナの目線で書こうと思ったのは、王様が二人いまして、カルナがその両家の戦の中に入っていくという役だからです。外部から入ってくる存在なので、物語の主軸を観察も出来ますので、『マハーバーラタ』というものが全体的に見えるのではないかと思いました。非常に壮大な話になると思うので、最終的には菊五郎さんに神々の視線でこのお芝居を全体的に包んでいただくことになると思います。
【尾上菊五郎】
菊五郎劇団は昔から新しいものに挑戦するのが得意というか、そういう伝統がありまして、今度もその一つと思って何かワクワクしながら芝居作りをしていきたいなと思っております。これを、“カレーライス”ですかね、何かインドのものを日本風にして日本に広めたというように、この『マハーバーラタ』と歌舞伎の様式美が上手く合体して皆さんに観ていただければと思います。
現代劇の演出家との仕事は大変楽しみでありまして、私共も手探りですし、多分、宮城さんも手探りだと思います。そこで、稽古の日数を重ねていくことによって、お互いの共通点とか、探し求めているものを掴み合って、それで舞台で演じていく、これが演出家を入れての稽古の楽しみです。歌舞伎というと、どうしても自分が演出家になってしましますので、今の演出家の方が何を考えているのか、最初は手探りの状態から、それがドッキングしたらとても面白いものができるのではないかと思います。
歌舞伎の持っている様式美を自然にお客様が見ていただける、「あっ、これ歌舞伎だな」と思っていただけるような作品にしたいと思います。壮大なお話なので、これを歌舞伎座の舞台でどう演じていくのか、これからが本当に楽しみです。
【尾上菊之助】
来る10月、歌舞伎座におきまして、新作歌舞伎『マハーバーラタ戦記』をさせていただくことになりました。この『マハーバーラタ』にはじめて触れたのは2014年9月のことでした。宮城さんが横浜で公演されていたのを拝見いたしまして、物語を見ていて非常に感銘を受けました。神様と人間の織り成すストーリー、音楽、そしてアジア全体を思わせるような演出を見た時に、『マハーバーラタ』というものが歌舞伎に出来るのではないかと思いました。
宮城さんに相談させていただいたところ「じゃあ、やってみよう」というお話をいただいて、そこからプロジェクトがスタートいたしました。そして、脚本を青木さんにお願いいたしまして、父をはじめ(市川)左團次のお兄さん、(中村)時蔵のお兄さん、(中村)鴈治郎のお兄さん、そして(中村)七之助さんも出てくださいます。12年振りに歌舞伎座で新作をやらせていただくこということで本当に気合が入っています。また今年は日印友好交流年でございますし、日印文化協定60周年にあたる年に奇しくも興行ができることは本当にありがたく思っております。日本とインド、近くて遠いような感じがしますが、是非、日本の方にもっとインドを身近に感じていただけるような作品にして参りたいと思います。
神様も出てきますし、王族も出てきますし、庶民も出てくるので、言葉使いには気を使いました。神様は少し硬い言葉でとか・・・、でも硬い言葉だと初めて観たお客様が聞き取れないとか、わからない部分が多くなりますので、なるべく一度聞いただけでわかる言葉を混ぜて脚本作りを進めてきました。
『マハーバーラタ』の長いお話の中でも、有名な場面、見せ場の場面を抽出してストーリーを作りました。さながら通し狂言の『仮名手本忠臣蔵』を見ていただくように、大序から始まって討入りで終わるみたいな、間には所作事もございますし、義太夫も入ってまいります。『マハーバーラタ』のエッセンスと歌舞伎のエッセンスを凝縮したものをご覧いただけるというふうに思っております。
この作品は、再演を重ねて歌舞伎のレパートリーに加わるような、古典にのっとった形で創っていくということを、宮城さんと青木さんともお話をしてきました。古典歌舞伎を一つ創るという思いで今取り組んでおります。
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