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日生劇場『日本橋』製作発表で玉三郎が公演への思いを語りました


 12月3日~26日、日生劇場で泉鏡花の名作 『日本橋』が上演されます。大正初期の日本橋を舞台に、医学士を巡って2人の芸者の意地の達引を、鏡花独特の台詞廻しで魅了する香り高い名作です。主人公・稲葉家の芸者お孝を演じるのは坂東玉三郎。前回新派公演で演じてから実に25年ぶりの挑戦となります。
 公演に先立ち製作発表記者会見が行われ、玉三郎ら出演者が公演への思いを語りました。

 

【坂東玉三郎】
 泉鏡花の作品は『天守物語』『海神別荘』と度々勤めてまいりましたが、『日本橋』は25年ぶり・・・こんなに日にちが経ってしまったという思いがございます。21歳から『明治一代女』や『滝の白糸』など長く新派の芝居を勉強させていただき、特に先代の水谷八重子先生にはいろいろと教えていただきました。八重子先生は「自分のお孝は、喜多村(緑郎)先生と花柳(章太郎)先生のお孝を翻訳して女優用にしたものですから、あなたはどれでも選びなさい」とそれぞれの形をして下さいましたし「自分のお孝を編み出しなさい」と言っていただいたことも印象深く残っております。
 今回は高橋さんの清葉、以前『ナスターシャ』でご一緒した永島さんの伝吾、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』でご一緒した松田さんの葛木、お千世には新人の斎藤さんを配役させていただきました。斎藤さんはもとは鼓童で太鼓を打っておりましたが、お千世のような鏡花作品のヒロインは皆様にあまり固定されたイメージのない方が良いと思いますし、初舞台という雰囲気など、純粋で自意識のない半玉としての存在が舞台にでてくれればと思っています。
 『滝の白糸』や『婦系図』など、鏡花作品は花柳界の人間の心を描きながら、そういった場所を借りて人間の本能、煩悩、理想といったものを突き詰めて描いていると思います。深淵で少し恐ろしい、人間の奥深くにある計り知れない空間というものが日生劇場の舞台に存在し、鏡花の人物がそこで演じられる・・・そういう空間でお芝居が出来ればと思っています。


【高橋惠子】
 大好きな『日本橋』という作品で玉三郎さんとご一緒できる・・・私の女優人生にとって、またとない最高のステージがそこにある、と感じております。そして今回は日生劇場での上演です。『日本橋』という作品の抽象的な部分というものが劇場にピッタリとはまるような感じがして、期待に胸がふくらんでいます。
 清葉は去年の1月新派公演で演じさせていただき、今回が2度目になります。舞台に人形が出てまいりますが、その人形と清葉とが重なりあい、でも人形ではない生身の人間としての様々な葛藤もあり・・・そうした部分がさらに表現できたらいいなと思っています。また、今回初めて白塗りをさせていただきますが、白塗には生身の人間とは少し違う、人形の様に扱われているような女性、という意味も持つのではと感じています。新たな気持ちで精一杯勤めさせていただきます。


【松田悟志】
 名作『日本橋』で葛木晋三という役をいただいたことに、今は身の引き締まる思いです。坂東玉三郎さんがお孝を初めて演じられたのが昭和53年3月、私が生まれる約9カ月前のことで、不思議な巡り合わせを感じています。諸先輩方、そして『日本橋』ファンの皆様のご期待に沿えるように心して勤めるつもりです。
 葛木晋三は完成された人格の持ち主で、佇まい、話し方、居住まい、全てにおいて私よりも大人の人格を持っています。そう感じている事を玉三郎さんにお伝えしたところ、誉めていただきました(笑)。その解釈を大事に、しっかりと準備すると同時に、臆することなく堂々と葛木という役に向き合っていきたいと思っています。


【斎藤菜月】
 この度、玉三郎さんにお声掛けをいただきまして、初めてお芝居に挑戦させていただきます。玉三郎さんからお電話をいただいたときは、相手を間違っているのではないかと思いました(笑)。最初は難しいのではないかと感じていましたが、お稽古を重ね、今はもう一度舞台からの景色が見てみたいと思っています。
 お千世を勤めさせていただきますが、これから12月まで必死に玉三郎さんに身を委ねてお稽古をし、舞台では自分とお千世がピッタリと重なり、緞帳が降りるまで一瞬も離れることなく勤めることができればと思っています。


【永島敏行】
 玉三郎さんとは『ナスターシャ』以来の共演で、非常に身の引き締まる思いです。私は五十嵐伝吾という、北海道で財をなした成金で、お孝に惚れて、惚れて、惚れまくるという男を勤めます。人生を全て投げ打って、惚れぬいた女に全てを賭ける、人を殺してまで、家庭や子どもを捨ててまで惚れぬく・・・実人生では絶対に出来ないことですが、心の奥底にある欲望を舞台でさらけ出せたらなと思っております。
 コンクリートで固められた現在の日本橋界隈ではなく、土や柳や水のある大正時代の匂い、雰囲気というもが舞台の上でどの様に出せるかが大切です。お節介であったり、とても煩わしいと思うような人間関係が、実は恋愛であったり、人間同士の大切な繋がりであるという事が、この芝居の大きなテーマになっているので、そうしたものを表現しながら、見たこともないような幻想的な舞台を創りたいと思っています。