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藤十郎、團十郎、梅玉が11月国立劇場『国性爺合戦』での意気込みを語りました。

  国立劇場11月歌舞伎公演では、通し狂言『国性爺合戦』が上演されます。『国性爺合戦』は、近松門左衛門の時代物浄瑠璃の最高傑作とも言われ、正徳5年(1715)11月、大坂竹本座、人形浄瑠璃での初演の際は、大入りのため17ヶ月連続興行の大当たりをとった作品としても知られています。

 配役は、近松作品に縁の深い坂田藤十郎の錦祥女(きんしょうじょ)、市川團十郎の和藤内(わとうない)、中村梅玉の甘輝(かんき)という大顔合わせ。正義の心にあふれた人々の活躍と美しい絆が、近松門左衛門ならではの巧みな筆致で描かれた異色の戦国ロマン。公演に先立ち、藤十郎、團十郎、梅玉が意気込みを語りました。

坂田藤十郎
 錦祥女を勤めさせていただきます。国立劇場では初めてでございますが、昭和48年に一度、錦祥女を勤めさせていただいた折に近松の原作を読み、浄瑠璃の語り口、錦祥女の大事な台詞を勉強したことを良く覚えています。

 錦祥女の台詞で最初に教えていただいた事は、楼門の場で老一官と和藤内とお母さんで喋りあう場面でした。調子を上げてゆっくり言わないと遠いところに居る人との距離感が出ないので、普通の台詞の言い回しではいけません。それでいて大きい声ばかり出していると感情が薄くなってしまいます。気持が入った台詞を大きく渡す・・・錦祥女の役の大事なところは楼門で、そのように喋るのが大事だと伺いました。後の甘輝の館の場との、声の調子・発声法の違いを今回の舞台ではハッキリと出したいと思っております。

 『国性爺合戦』は中国と日本とに渡りドラマが繰り広げられる非常にスケールの大きい作品ですので、作品の大きさを楽しんで頂きたいと思っています。そして、国を隔てた親子の愛情、錦祥女は2歳の時に別れた父に久しぶりに会い、それからドラマが繰り広げられます。自分の命まで捨てて皆に幸せになってもらおうという深い志、人間の愛情というものをぜひ観ていただきたいと思っています。


市川團十郎
 和藤内を勤めさせていただきます。和藤内は20年前に国立劇場で勤めさせていただきました。その時は千里ヶ竹の場からでしたが、今回は序幕で大明御殿の場、肥前国平戸の浦の場が加わります。歌舞伎ではこれらの場はあまり出ませんが和藤内が平戸の浜で鴫と蛤の戦いを見て戦とは何かというものを学び取り、そこで偶然に父の老一官とお姫様である栴檀皇女と巡り会い、国難を救いに出るという大切な場面です。

 知と勇と両方を供えているのが和藤内だと思っています。台詞の中にも、和(日本)でもない、唐(中国)でもない、ハーフの寂しさ、和藤内の思いが出て参ります。平戸の浜を、孤独感を感じる人間的な和藤内を表現する場とし、それを土台に後は虎退治など、荒事で一気に爆発していく、そんな和藤内にしたいと思っています。そして、「『国性爺合戦』は、やはり序幕からやるもんだ」と皆様に思っていただけるように、心掛けて勤めさせていただきます。

 それにしても、近松門左衛門という方は凄いなと思います。唐(中国)には行ったことがないそうですし、この作品を書いたのは牢に入っていた時だったというようなお話も聞いております。そういう中でこれだけ広大な発想を得られたということは、本当に凄い事です。そしてこの物語では、国と国の間に行き交う、あるいはお互いに故郷を縛られた人間たちの壮大な人間模様をお書きになっています。国と国との問題、その国に行ける行けないという思いを持った方々は現代にもいらっしゃるでしょうし、そうした人々の思いを甘輝、錦祥女、和藤内の中に書いているということも本当に凄いことです。そういうことを多少意識しながら、ある面で今日的なテーマの部分があると思っていますので、その辺が今回の公演の中でどうなるかなと思っています。


中村梅玉
 『国性爺合戦』はご承知の通り、歌舞伎の古典の中でも代表的な作品で、子供の頃から大先輩方の舞台を拝見しながら、こういう作品にいずれ出られるような役者になりたいなと思い修行をしてまいりました。その中でも重要な役の甘輝を今回初めて勤めさせていただく事になりました。大先輩方の甘輝が眼に残っておりますのでそれを思い出しながら一所懸命勉強して勤める覚悟でございます。藤十郎さんが勤められる錦祥女の旦那さんの役ですし、團十郎さんとは最後に2人で立身になってというような場面もあります。お二人に位負けしないような甘輝を勤めたいと思っております。

 甘輝は凄く肚(はら)のいるお役だと思います。近松の作品ですし、本業(人形浄瑠璃=文楽)のものですから、本業の台詞回しなどをよく研究してこの人物像を作り上げたいと思っております。そして甘輝といえば、やっぱりこの長い髭でしょうか。こんな髭は付けたことがありません(笑)。こうして髭を付けて衣裳を着ると、見た目は唐人の将軍ですが、自分の性根としては唐人ということにはこだわってはおりません。あまり外人っぽくやるというのは間違いではないかと思っています。

 歌舞伎をご覧になるとき、見た目の美しさというのはとても重要な要素です。『国性爺合戦』は、スケールが大きくとても良い作品ですが、やはり古典は苦手だと思われる方もいらっしゃると思います。でも、この作品は見た目のインパクトも凄くあり、中国の御殿が飾られ、その中で登場人物が華やかな唐人服を着ている、そういう見た目の美しさも是非楽しんでご覧頂きたいと思っています。それによって、またこの作品の深みがどんどん出て来るような気がしております。