片岡 市松 カタオカ イチマツ

本名
高野武男
屋号
松島屋
生没年月日
昭和2(1927)年02月06日〜平成28(2016)年05月20日
出身
東京・杉並

プロフィール

すらりとした痩身。鼻筋の通った面長で目元が涼しい役者顔だった。1927(昭和2)年に東京杉並高円寺に生まれ、戦争たけなわの1941(昭和16)年に14歳で前進座に入った。芸事が好きだった母や浅草の大衆演劇にいたいとこの影響だという。しかし世の中は芝居どころではなくなった。この年の12月8日、日本海軍がハワイ真珠湾のアメリカ太平洋艦隊を奇襲して日米開戦。高野少年も徴用されて戦闘機工場へ。戦後は松竹大船撮影所のニューフェイスになったが、生の舞台が恋しくて、松竹の重役の世話で五代目片岡市蔵に入門。片岡家で由緒ある部屋子の名である市松で生涯を通した。菊五郎劇団で立廻りや馬の脚、駕舁などを真摯に勤め、気さくで物静かでいつもに穏やかな人柄が後輩たちから慕われて、いつしか大部屋の古株として若い連中をまとめる立場になっていた。2004(平成16)年の第33回「俳優祭」の『奈落~歌舞伎座の怪人』で、名題下の立役全員が歌舞伎座の舞台から花道まで横一列にならんで一度にトンボを返るという趣向に自ら志願して、若い者たちに混じって77歳でトンボを返ったのはいまも伝説である。2012(平成24)年に第18回日本俳優協会賞功労賞を受けた。2016(平成28)年2月、現役最長老として89歳で歌舞伎座『新書太閤記』に出演し、町の男を勤めたのが最後の舞台となった。

【浅原恒男】

経歴

芸歴

劇団前進座に入り、昭和17年9月南座で山村武二郎を名のり初舞台。22年1月五代目片岡市蔵に入門、片岡市松と改名。平成21年9月伝統歌舞伎保存会会員の第12次認定を受ける。

受賞

平成2年11月『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』陣門・組討の馬の演技で歌舞伎座奨励賞、24年第18回日本俳優協会賞功労賞、ほか。