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国立劇場12月歌舞伎公演 出演者が意気込みを披露


 国立劇場の 12月歌舞伎公演では、古風で華やかな長唄舞踊『今様三番三』と、江戸の男伊達の心意気と情愛を描いた傑作『隅田春妓女容性-御存梅の由兵衛』を通し狂言で、中村吉右衛門が梅の由兵衛に初役で挑みます。公演に先立ち、取材会が行われ、出演者が公演への思いを語りました。

中村吉右衛門
 私は『隅田春妓女容性』で梅の由兵衛という役を演じさせていただきます。副題が“御存梅の由兵衛”となっておりますけれども、私の梅の由兵衛は、どなたもまだ“御存じない”梅の由兵衛になっておりまして、これから一所懸命、皆さんと力を合わせて良い舞台、良い芝居に創り上げたいと思っております。
 “御存じない由兵衛”と申しましたが、これは初代中村吉右衛門、私の養父がとても当てた役で、当時は本当に皆様には御存じのお芝居でございました。けれども、初代が最後にやったのが約80年前で、実父の白鸚がこれをやりました時から約60年です。
 実父が頭巾を被った「梅由」を、どなたか画家の方が描いて下さっておりますけれども、それは素敵な「梅由」でございました。楽屋での実父はよく憶えていますが、舞台は本当に憶えていないんですね。これは自分の役柄ではないと思っていたのか・・・当時のインタビュー等で、言葉や写真などが残っていますから、それらから類推して創り上げなければならないと考えております。

 男伊達というのは、強きをくじき弱きを助ける、仁義に厚く、そのためには命も惜しまないような男でございます。台本を読ませていただきますと、仁義に厚い、自分の命を助けてくれた主人に対して忠義を尽くし、それだけを念頭に置いて生きている男、それが侠客ということになるのだと思います。梅由と私との共通点といいますと、“傾(かぶ)き者”というところですね。侠客も当時は何から出たかというと“かぶく人”ですね。そういう者からだんだん侠客になっていくらしいんです。私も“歌舞伎者”でございまして、そこのところが共通していると思います。


中村東蔵
 『隅田春妓女容性』の信楽勘十郎という、誠に便利な役というか、いわゆる捌き役を勤めさせていただきます。まあ“ジョーカー”みたいな役で、困ったとき出てくるような非常に良い役なんでございます。播磨屋さんも仰っていましたが、“御存梅の由兵衛”といっても、今はまだ“御存じない梅の由兵衛”なのですが、この上演を機会に御存じになるような良い芝居にしたいと思います。
 今回、初めての役なのでどうしようかと・・・配役表をみていると、八代目市川團蔵、六代目尾上菊五郎と、いろいろな方がなさっているので、イメージとして自分が團蔵のおじ様に抱いているイメージとか、そういうのを活かして、それに近づこうと思ったり、そうじゃない別のやり方もあるかなと、模索している最中でございます。


中村歌六
 『隅田春妓女容性』の源兵衛掘の源兵衛という、悪者チームの一番の悪人をやらさせていただきます。小梅に横恋慕したり、嘘をついたり、お金を騙し取ったりする、本当の悪人です。
 それでも、たまに良い人みたいな顔しちゃう時があるんです。もちろん騙しているんですけどね。お金貸してあげちゃったりなんかして。それで“上手く騙せた”みたいな、ところが表現できたら面白いなと思っています。
 とにかく台本を一所懸命読んで、自分の中である程度の形を創って、本の読み合わせをしたりお稽古をしながら、皆様方から意見を頂戴したりして、形づくっていければいいなと思っております。


中村雀右衛門
 最初の『今様三番三』では、父(四代目中村雀右衛門)が昭和50年に演じましたものを、今回勤めさせていただけることになりました。父に負けぬよう精一杯、皆さんに喜んでいただけるよう勤めたいと思います。また『隅田春妓女容性』では額の小三という役で出演させていただきます。由兵衛さんに色々とご迷惑をかけ、やっと請け出されて・・・というお役でございますが、それに見合うように精一杯勤めたいと思います。
 『晒三番叟』とも言われているように、源氏の白旗を晒しに見立て、舞台の上で、しかもお姫様のなりで振るというところが大変難しゅうございますが、そこが見せ場となっておりますから、それが立派に振れるように、また、時代物というかどちらかといえば世話ではない踊りでございますので、藤間勘祖先生、藤間勘十郎先生の振り付けでしっかりと勤めさせていただきたいと思っております。


中村又五郎
 『隅田春妓女容性』では兄の歌六が演じる源兵衛のような大きな悪者ではなく、本当にちっちゃな悪者を勤めさせていただきます。播磨屋のお兄様から、梅の由兵衛というのは、初代吉右衛門が評判をとった芝居だというお話しをかねがね伺っておりましたので、今回、当代吉右衛門のお兄様のもと、この梅の由兵衛という作品に参加させていただくことを本当に嬉しく思っております。
 どび六は本当にちっぽけな悪人で、もともとは侍だったらしいのですが、それでいて間抜けで・・・そういう小悪党の雰囲気が出ればいいかなと思っております。以前に兄の歌六が勤めている役でもありますし、その前は十七代目勘三郎のおじも勤めているので、なかなか近づくことはないのでしょうけれども、勘三郎のおじを思い描きながら勤められたら、と思っております。


中村錦之助
 ここのところ、ずっと雀右衛門のお兄さんと相手役で、どれも同じじゃないかと言われないように、この作品はこう、この作品はこうと勤めてまいりました。『隅田春妓女容性』の金五郎では、前の二枚目とは全く違った味で見ていただけるように精一杯勤めたいと思っております。
 今回も二枚目ですので、台本をよく読んで、播磨屋のお兄様が創ろうとしている方向を一緒に向いて、お話しを良く聞きながら金五郎を創り上げたいと思っております。


尾上菊之助
 『隅田春妓女容性』では由兵衛の妻、小梅、そして、小梅の弟、長吉の二役を勤めさせていただきます。小梅は由兵衛に対する情、長吉は姉・小梅に対する情、どちらもこの“情”というものを非常に大切にしなければならない二役です。播磨屋の父の胸を借りて勤めさせていただきたいと思っております。
 二役で早替りの場面もございまして、そこをどういう風にお見せできるのか、よく考えてやらなければいけないと思っています。また、義太夫がたっぷりと入った、時代物のような場面もありますので、それに乗せて役の心情を表現できればと思っております。とにかく、金策に走っている由兵衛をなんとかして助けたいという小梅と、悩んでいる小梅をなんとかして助けたいという長吉の、人に対する思いや“情”がどれだけ深く描けるかというところが課題だと思っております。